考えてみれば、これだけ商業不動産が豊富にあるなかで、投資家がその器づくりに参加することなく、ほとんどすべてが自己所有による自己使用に限られている市場はきわめて稀です。 しかも、それらの商業不動産が売却されるときにも、投資用の収益不動産としてではなく、同じような自己使用のための実需不動産として売りに出すわけですから、買い手の対象も限られ、流動性も不足しがちです。
これでは、いくら金額が大きくても投資対象としてはまったく魅力のない市場のままです。 前述したように、アメリカの収益不動産は実にバラエティーに富み、その市場規模も3兆ドルと膨大です。
実需市場よりも投資市場の方が市民権を持っているのがアメリカです。 しかも、86年の税制改正で不動産を使った節税が事実上できなくなりましたから、それ以降のアメリカ人の投資妙味は、まさに収益性だけです。
収益不動産の世界共通の定義は、おおむね「保有期間中は毎年賃料収入を確保することができ、かつ将来売却したいときに売り払うことによって、売却益による収益も得られる不動産」ということになります。 したがって、不動産の収益価格とは、「不動産が毎年生み出すと予測できる賃料収入から支出費用を控除した純収益と、将来の投資終了時(売却時)における予測売却益の両方を現在価値に割り戻して合計した価格」ということになります。

そして、これに必要な投資分析とは、これらの収益予測が投資家の求める投資採算に合致するものかどうかを検討し、実証することなのです。 ここには、日本人が好む希望的観測や、不動産のプロとかベテランを自称する人達が得意とする「勘と度胸と経験」が介在する余地はありません。
日本人の場合は、まず学と、収益不垂が不可欠です。 日本では、いまだに不動産を買うインセンティブが一番大きいのが節税です。
これでは世界一の不動産後進国と呼ばれても仕方ありません。 では、日本に本格的な収益不動産市場をつくるにはどうすればいいのでしょうか。
それには、市場原理に基づいた収益価格をフェアバリュー(適正価格)とする投資哲と、収益不動産市場に継続的に投資マネーを投入できる投資スキームをつくること図表は、不動産投資の資本市場からの直接調達スキームを簡略に表したものです。 このなかでは、真ん中にある「仕掛け」の部分の役割が大変重要です。
不動産投資スキームでは、投資形態がデットであってもエクィティであっても、対象不動産が収益不動産であることに日米の差はありません。 問題は、「仕掛け」にあたる部分がアメリカでは実にバラエティーに富んでいるのに比べ、日本では事実上信託しか使えないことです。
アメリカではこの「導管」にあたる部分にパートナーシップを使おうが、株式会社を使おうが、原則としてすべてパッシブインカムとして2重課税を回避できるようになっています。 「仕掛け」には課税されることはなく、最終的に投資家に収益が配分された時点で課税されるという仕組みが30年も前から確立されているのです。
日本でも、昨年になってやっと株式会社(SPC)を使った不動産投資のスキームが検討され始めました。 担保不動産の譲渡を受けて社債を発行する特別目的会社に、法人税や不動産取得税などを免除する方針を大蔵省が打ち出しています。
SPC法案と呼ばれる新法が国会で成立し次第、実施される見通しです。 これが担保不動産だけでなく、広く一般の収益不動産にも対応できるスキームになれば、日本でもそこそこ新しい不動産投資の動きが出てくるかもしれません。
私見ですが、日本人の不動産投資に対する考え方からして、デット(モーゲージ)の証券化による不動産投資スキームは、日本人には浸透しないと思います。 おそらく、日本人の気質に合う不動産投資は、エクイティ(所有権)型でかつ誰にでもわかりやすい株式会社を使ったREIT(不動産投資信託)か、マスター・リミテッド・パートナーシップではないでしょうか。

両者は、投資家が所有権を間接的にでも所有できる点と、比較的流通市場がつくりやすいという点で過去にあった不動産の小口化商品とは違いますし、単なる不動産の持分化商品よりは合理的なスキームです。 かつて87年の不動産バブル真っ盛りの頃、経済企画庁が地価抑制策の1つとしてREITの日本への導入を検討したことがありました。
当時は土地取引に関する規制を厳しくして取引件数を減らし、それによって地価を抑制しようというまったく間違った政策が採られていましたから、不動産の需要を増やして取引を活発化させるREITの導入は、地価を上げる危険性があるとして猛反対に合い、構想は潰されました。 このとき少しでも為政者に先を見る目があれば、日本はいまよりもずっとまともな不動産投資市場を持っていたことでしょう。
不動産の証券化においては、つねに日本特有の2重課税の障害を取り除く必要がありますし、流通市場を誰がつくるのかという問題が残ります。 アメリカは、当局の最低限の規制緩和を機に、民間の証券会社やブローカー達が積極的にマーケットメークをしました。
当初は私募マーケットという形で、仲間うちで流通を増やし、徐々にその市場を広げていきました。 日本でいう最低限の規制緩和とは、2重課税をヘッジすることでしょうから、もしこれが撤廃されれば民間のプレーヤーが打って出るチャンスです。
いまから準備しておくべきでしょう。 不動産投資ローンはすべてノンリコースローンアメリカの収益不動産ファイナンスは、通常ノンリコース型で行われます。
これをノンリコースローンと呼んでいます。 ノンリコースローンとは、融資の求償権が当該の担保物件だけに遡及するローンのことで、この点がすべての資産に求償権が遡及するリコース型と違う点です。

一方、日本の不動産ファイナンスは、伝統的にリコース型で行われてきました。 リコースローンとは、不動産担保を取りながらも与信先のすべての資産に求償権が遡及するローンのことで、一般的にはノンリコース型よりも低金利でリスクの低いファイナンスだと考えられてきました。
貸し手の金融機関からしてみれば、不動産担保と与信先のクレジットの両方を担保に取れるわけですから、表面上は確かに安全度が高いローンに見えるかもしれません。 ところが、バブル崩壊後に日本の不動産市場が経験したような、不動産価格の著しい下落と事故債権が急増する場面では、リコースローンのリスクは、担保の保全面に関しては、むしろノンリコースローンよりも高まる可能性があります。
例えば、日本流のリコースローンでは、基本的にローンの借り手が抵当権の後順位設定を行うことが自由にできるので、担保不動産の価値が上昇している間に、複数の債権者が担保価値以上の抵当権を持ち合うケースが続発しました。 与信額が大きく、数百億円単位の融資も決して珍しくなかった不動産担保ファイナンスでは、担保実行が速やかにできないことのリスクには、相当大きなものがあります。
これが原因で、日本はおそらく世界で一番担保権実行がやりづらい国になっています。 また、担保物件が生み出す賃料収入その他のキャッシュフローの保全に関しても、リコースローンでは不十分です。

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